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そのとき、ナツキが叫んだ。
「あ……あそこ!」
階段を指さす。
ユウヤは光を階段に向けた。ハッとする。
誰かが階段のところに立っていた。
いや、はっきり見えたのは、誰かの影だ。天窓から入る月明かりが、濃い影を落としている。手に斧を持っている。斧のさきからは、ポタリ、ポタリと、しずくが……。
ユウヤたちは全員、立ちすくんだ。
そのすきに影は動きだした。階段をかけおりていく足音が聞こえる。
「うわあッ」と悲鳴をあげて、ヒロキが部屋に、とびこむ。そして、なかからカギをかけた。
アスヤも扉に、とびつく。
「ヒロキ! なにしてんだよ!」
叫びながら、ドアをたたく。が、ヒロキがドアをあけるようすはない。
ナツキはアスヤの背中に、しがみついた。泣いている。
ユウヤはキリトを見た。
友人の顔が、くっきり見える。今も、ずっと危険は続いている。死が近い。
(おれたちは今、死のなかにいる)
この状況では、何をしていても同じなのだ。
ユウヤは無言で走りだした。さっきの人影を追って。何をしても同じなら、何もしないよりは、何かをしたほうがいい。
「待てよ! ユウヤ」
キリトが追ってきた。
二人で階段をかけおりる。
何度も折れまがる、らせん階段。
相手の姿が見えそうで見えない。でも、足音は、だんだん、はっきり聞こえた。少しずつ追いついてる。
一階まで下りたところで、逃亡者の姿が見えた。黒い服を着た、男……だろうか? 上から見たので、顔は見えなかった。
男はそのまま、地下へと階段をおりていった。 あの、まっくろな底なし沼のような穴へ……。
さすがに、ユウヤは、ひるんだ。一人だったら、行かなかったかもしれない。
だが、キリトがユウヤを見る。行かないのか、という目で。
その視線の強さに押されるように、ユウヤは地下への階段をおりた。
足が重い。
またショコラか? 子どものころ飼っていたラブラドルレトリバー。老衰で死んだのは、おととし。
ユウヤに危険が迫ると、ときどき、あらわれる。以前、トラックにひかれそうになったときにも、足にまといついて、ひきとめてくれた。
足元を見ると、今度は別のものだった。
いつものやつだ。何度、見ても、ギョッとする。
(離せよ。おれは行くんだ!)
足げにする感じで、ふりほどく。
地下へ向かうと、急に、ひんやりした。
いやな匂い。
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