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今まで、誰にも言ったことはない。
が、ユウヤには、ある特殊な力がある。
現実には、なんの役にも立たない力だから、メリットはないのだが。
(いや……そうでもないかな。トラックにひかれそうになったときも直前で、さけられたし)
あの建物には近づかないほうがいい。
その力は、はっきりと、そう示している。
「早く行こうよぉ。サムイよ」
エリカが泣きだした。ナオトの彼女は、もともと同じ高校のクラスメートだ。だから、けっこう平気でワガママを言う。
もっとも、今の場合はエリカでなくても、病気になりそうに寒い。
「うん。行こう。ホテルかなんかかも」
「そうだな」
と、ナオトやヒロキは、言いながら走りだすが……。
「……やめたほうが、よくない?」
キリトが、しぶる。
「なんでだよ?」
「なんか……古そうだし。暗いし」
「そんなこと言ってらんないだろ。いいよ。じゃあ、おれたち、さきに行くから」
みんなは走っていってしまった。
ユウヤとキリトだけが、その場に残る。
「どうする?」
キリトが、たずねてくる。なんとなく助言をもとめるような目で。
ユウヤは、ドキリとした。
キリトはユウヤの秘密に気づいているのだろうか?
「おれは……行きたくないな」
「やっぱり」
やっぱりって、なんだろう? やっぱり、気づいているのだろうか。
「……キリト」
聞いてみようかと思った。が、キリトのほうが言いだす。
「けど、あいつら、ほっとけないよな。ほかに雨宿りできそうな場所もないし」
「あ、うん……」
キリトも歩きだした。
しかたなく、ユウヤは追った。
どうしようもなく、いやな予感がするのだが。
近づくと、それは三階建ての大きな建物だった。病院か保養所のように見える。
鉄柵でできた門の前に立つキリトに話しかけてみる。
「ずいぶん、荒れてるな」
キリトはふりかえった。稲光のせいか青ざめて見える。
「そうだな。廃屋みたいだ」
「うん。でも……」
「でも?」
「……なんでもないよ」
ユウヤは迷った。自分一人でも逃げだそうかと。あるいは、キリトだけでもつれて。
キリトは母子家庭だ。高校二年のとき、父親が死んだ。そうでなければ、みんなみたいに今ごろは大学に行ってたはずだ。
そのせいか少し冷めたところもあるが、根本は思いやり深い。
キリトの母が苦労してきたことも知ってるし、キリトだけは死なせたくない。
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