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アスヤが食われて、まだ時間が経ってない。ついさっき分裂したから、一匹は近くにいるはずだ。
とすると、ナツキはルナに、つれていかれたのか……。
急に、レラが一歩さがった。ふりむこうとしたユウヤは左手に、するどい痛みを感じた。レラの手にメスが光っている。
「レラ! なにするんだ」
すると、その瞬間だ。階段のかげから、何かが、とびだしてきた。獣のような、うなり声をあげて。ユウヤの左手に、かぶりついてくる。
とっさに、ユウヤは、それをつきとばした。それは、もろに階段をすべりおちた。頭から落下する。
レラが叫ぶ。
「とどめをさして!」
かけおりると、ルナが倒れている。ピクピクけいれんしているが、まだ息がある。
「とどめって言われても……」
もたもたしてると、レラがさっきのメスで、ルナを刺した。心臓をひとつき。よどみない手つき。
「これで、あと四体」
ユウヤは痛みのある左手をなでる。ぬるっとした感触があった。血が流れている。
「ごめんなさい。あいつらは血の匂いに敏感なの。新鮮な血の匂いをかぐと、食欲が抑えられなくなるみたいよ」
「おれを囮にしたんだ」
「ごめんね」
まあ、しかたない。じっさい、囮くらいでしか役に立てないしーーと、ユウヤは思ったのだが。
キリトが厳しい口調で言いだす。
「もしかして、アスヤのことも、囮にしたのか?」
ハッとした。そう言われれば、そうだ。
レラをとじこめていた病室のカギはあいていた。誰かが外からカギをあけたのだ。この場合、誰かとは、キリトからカギをうばったアスヤということになる。
レラは淡々と答える。
「あの人、わたしを犯そうとしたから。うしろにルナが立ってることに気づいてなかったのね」
「ふざけんなよ!」
キリトはレラに、つかみかかっていく。
ユウヤは全力でキリトを押さえた。
「よせよ! レラに怒ったって、しかたないだろ。女の子に乱暴しようとしたほうが悪いんだし」
「女? 死体だろ?」
「死体でも女の子だ」
「悪趣味すぎる。ありえない」
あくまで、レラは冷静だ。
「ケンカはあとにしてくれない? 早く、ルナを始末しないと」
なおさら、キリトは腹を立てる。
「おまえのせいだろ!」
だが、ユウヤが
「ナツキさんも、どこ行ったか、わかんないんだ。探さないと」
なだめると、ようやく、だまる。
それにしても、ナツキは、どこに行ったんだろうか?
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