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「気絶してたから、気がついて、おれたちを探しに行ったのかもな」
ユウヤが話しかけても、ふてくされて、キリトは応えない。
三階を歩いていたなら、どこかでユウヤたちと、すれちがったはずだ。
ということは二階より下に、おりていったのか。
ユウヤたちも、二階に向かった。
踊り場にころがったアスヤの首のそばを通るときには、思わず目をそらした。
なんだか、何もかもが悪い夢のようだ。
二階におりたとき、レラが首をかしげた。
「……シオンの匂いがする」
「近くにいるのか?」
「もういないかも。わたしたちが住んでるのは、病院のなかじゃないから。こっちに来るのは実験のときだけ。でも、少し前まで、いたと思う」
「もしかして……あの斧を持った男……」
「かもね。バンガローの暖炉用に、まきを割るための斧があるし」
「バンガロー?」
「この病院の裏手にあるの。わたしとシオンは、ふだん、そこで暮らしてる」
「そんなことより」と、キリトが口をはさむ。
「早く、ナツキさん、探そう」
二階には、どこにもいなかった。
続けて一階におりる。が、そこにも見あたらない。
「地下……かな?」
ためらいがちに、キリトが言った。
「まあ、そうなるよな……」
「あんだけ怖がってたのに、一人で地下、行くか?」
「事情が変わったのかも?」
「どんなだよ」
「そんなこと、わからないよ」
「行ってみるしかないか……」
その前に一階に来たついでだ。もともと探していたのは懐中電灯のための電池。または懐中電灯。ありかを知らないか、レラに聞いた。
「ナースステーションの壁に懐中電灯がかけてあった。古いから使えるかどうか、わからないけど」
暗いから手さぐりだ。
壁をなでていると、クモの巣やホコリで、手がザラザラになる。
暗闇で、いつのまにか三人、バラバラになった。とは言っても、近くにいるはずだ。
カタン、カタンと音がする。
(あれ? でも、この音……どっかで聞いたな)
いつ? どこで?
思いだそうとしていたとき、手に円筒形のものがふれた。懐中電灯だ。
スイッチをさがし、つけてみた。光が闇を切り裂く。暗闇になれた目には、まぶしすぎるほど。
「おい、あったぞ!」
懐中電灯を持ったまま、ふりかえったときだ。 光のなかに、何かが浮かびあがった。
すぐそばだ。ユウヤに向かって迫ってくる。髪の長い女の子ーールナだ。
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