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「わあッ!」
なさけない話だが、ユウヤは腰をぬかした。ぺたりと床に、しゃがみこんでしまった。
だが、それが結果的に、ルナの攻撃をさける形になった。
しゃがんだとき、手に何かが当たった。
とっさに、それをふりかざした。
体勢をととのえ、とびかかってきたルナに、それが突き刺さる。ボールペンだ。ルナの口のなかから、ボールペンが生えている。
ユウヤは生まれて初めて、他人を傷つける感触に気持ち悪くなった。手がふるえる。
ルナは倒れた。レラがやってきて、とどめをさす。
「あと三匹」
しばらく、ユウヤは立ちあがることができなかった。
「ユウヤ。あれは人間じゃないの。バケモノよ。だから、気にしなくていいの」
「うん……」
まだ三回、あれに耐えなければならないのか。バケモノだとわかっていても、やらなければ世界が滅ぶとわかっていても、気分が悪い。
「……あれ? キリトは?」
近くには、キリトの姿がない。
見まわしていると、どこかで大きな物音がした。ドンと、重いものの倒れるような音。
ユウヤは音のしたほうへ、近づいていった。ナースステーションの奥に、小さなドアがある。あけると、ロッカールームになっていた。
ロッカーの前で立ちつくしている人影が見えた。
「……キリトか?」
ふりかえる顔は、たしかにキリトだ。
でも、ひきつった表情は、ただごとじゃない。
「どうかしたのか? キリト」
キリトは、だまって、自分の前方を指さした。ならぶロッカーの一つを。 いや、厳密には、その下方を。
そこに何か倒れている。さっきの物音は、これだろうか。これが倒れたときの音に違いない。
ユウヤは、ゆっくり近づいていった。
キリトの足元を懐中電灯で照らす。
光のなかに、異様なものが浮きあがる。
初めは、それが、なんなのか、理解できなかった。なんで、そんなところで、それを見るのか……。
(おかしい。こんなはずない……だって……)
だって、マサルは裏切り者のはずだ。
おれたちを、この建物に閉じこめて……シオンってやつのために、おれたちを実験台のエサにして……。
だが、どんなに見つめても、その事実は変わらない。そこに倒れてるのは、マサルだ。
「マサル……? おい、マサル?」
肩に手をかけると、冷たかった。死んでいる。
「なんで……マサルが?」
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