86人が本棚に入れています
本棚に追加
ユウヤは答えを求めて、キリトを見た。
キリトは首をふった。
「おれじゃない。ロッカーあけたら、倒れてきたんだ」
まあ、そうだろう。
死体のこの冷たさは、死んでから、かなりの時間が経っている。
「マサルじゃなかったんだ……裏切り者」
それどころか、まっさきに犠牲になっていた。たぶん、最初に病院内に入ったとき、人知れず、殺されていた。本当の『裏切り者』によって。
その証拠に、マサルは食べられていない。よく見ると、首をしめられたような跡がある。
「きっと、自分の正体に気づかれそうになった裏切り者が、マサルを。
それか、あとで、おれたちのなかに裏切り者がいるとわかったとき、マサルのせいにするために……」
キリトが、ユウヤを見あげてくる。
「おまえじゃないよな?」
「違う」
「おれでも、おまえでもないなら、誰なんだ。もう生きてるやつなんてーー」と、言いかけて、キリトは叫んだ。
「そうか! ナツキさんか」
たしかに、それしかない。裏切り者自身も食べられてしまっているのではないかぎり。
そう思えば、急に姿を消してしまったのも怪しい。
キリトが、たずねてくる。
「どうする? ナツキさん、探すか?」
「探しながら、ルナを退治しよう。あと三体だっけ」
とにかく、武器がいる。
「メスでもなんでもいいから持ってないと。急がないと、どこに、ひそんでるかわからない」
「じゃあ、とりあえず、これを持ってて」
レラがハサミを渡してきた。けっこう大きいやつだ。
「これ、どうしたの?」
「ナースステーションにあった備品よ。ないよりマシでしょ」
マシどころか、たのもしい。
だけど、心配なのは懐中電灯だ。さっきから、ときどき点滅する。
「急ごう」
「二階のやつなら、居場所がわかってる。さきに、あいつを始末してしまいましょ」
「ほかに武器はないかな?」
「地下に行かないと。一階の手術室は、もう使ってないから。使える器具は全部、地下の実験室に移したの」
「しかたないな。じゃあ、さきに二階に行こう」
もうすぐ夜が明ける。
窓の外が、ほのかに明るい。
それまで懐中電灯の電池が、もてばいいのだが……。
三人で二階に、あがっていった。
やっぱり、ナツキの姿はない。
「キリト。鍵」
病室の鍵をあけるよう、キリトをうながす。
キリトは深呼吸をして、鍵穴にカギをさしこんだ。カチリと音がした。
最初のコメントを投稿しよう!