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ユウヤに見えるのは、ややうしろむきの横顔だ。その人は、窓のほうを見ていた。
(この人だ。おれが外で見た人。でも、じゃあ、これは……誰なんだ?)
レラが、そうなんだと思っていた。
しかし、そういえば、レラに会ったとき、少し違う気がした。似ているが、なんとなく別人のような。
しいて言えば、魂の形が違う。
「シオンなの?」と、レラが言った。
ショックだった。
ユウヤが最初に惹かれたのが、『シオン』だったことに。
レラの話を聞くだけでも、悪魔のような思考の持ちぬしだとわかるのに。
シオンはレラの声を聞いて、ふりかえった。
「やあ、レラ。ここにいたやつは僕が始末しといたよ」
よく見ると、シオンは手に斧を持っている。そして、足元に、ルナが倒れていた。分裂したばかりの裸のルナだ。分裂直後は衣服を着てないから、古い個体と見分けがつく。
「どうして? あなたは、わたしの考えに反対してたじゃない?」
すると、シオンは笑った。
悪魔的なのに、とんでもなく魅力的な笑顔だ。
グッと胸が痛くなる。
ユウヤは自分の気持ちを抑えるのに苦労した。これは、惹かれてはならないものだ。
「君がムチャするからさ。その体を使うなんてね。わかってる? 冷凍から溶けたら、くずれてしまうんだよ? 僕らのほんとの体なのに。君が遺した最後のものだ」
「昔のことは、もういいじゃない。わたしは今のわたしたちも好きよ。それじゃダメなの?」
「だからさ。こうして君の手伝いしてあげてるんじゃない」
「あなたは、それでいいの?」
「しかたないだろ。早くルナを全部、抹殺してしまおう。それで、君は僕のなかに帰ってくる。その体は、もう一度、冷凍する」
レラは答えるまでに、数秒、考えた。
「……わかった。そうしましょ」
ユウヤは二人の会話をだまって聞いていた。ショックで、話どころじゃなかった。
かわりに、キリトが口をはさんだ。
「ちょっと待てよ。そいつがシオン? そいつが、おれの友達を死なせた張本人なんだろ? 今度は、おれたちに協力するって? そんなの信じられるかよ」
シオンは薄笑いをうかべた。
「べつに君たちを助けるつもりはないさ。生きて帰ろうが、途中で死のうが、どうだっていい。ただ、レラの願いは聞いてあげるってだけのこと」
冷めた口調で、レラが言う。
「シオンに道理は通用しないわ」
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