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あの地下の実験室。
たしかに、何者かの気配を感じた。
「行こう。ナツキさんも、そこにいるかもしれないし」
ユウヤが言うと、キリトがシオンを指さした。
「それはいいけど、あいつの斧、とりあげとかないか?」
それは、できることなら、そうしたい。
狂人に凶器を持たせておくのは不安で、しかたない。
「斧、こっちに貰えますか?」
「そこまで君たちのこと信頼できないよ。とりあげたとたんに僕を襲ってくるだろ?」
すると、レラが提案した。
「わたしが持ってるわ。それなら、いいでしょ?」
シオンもレラの言葉は素直に受け入れた。
「わかったよ。そのかわり、懐中電灯を持たせてくれないかな。そのくらいの権利はあっていいと思う」
というわけで、所持品のグルグルまわしだ。斧はシオンからレラに。メスはレラからユウヤに。ハサミはユウヤからキリトに。懐中電灯はユウヤからシオンに。
その状態で、ユウヤたちは地下に向かっていった。
地下におりたつと、やはり、いやな臭気が、まといつく。大量の血が流された匂い。大量の肉が腐った匂い。
無意識にユウヤは鼻と口をおおった。
それを見て、シオンがユウヤの耳元に、すっと唇をよせてくる。甘い呼気が首すじをくすぐる。
「大丈夫。ルナは新鮮な血の匂いに敏感だから。ちゃんと君の匂いに気づくよ」
さっきレラにメスで切られた傷のことを言ってるのだ。
「そうか。この傷……だから、やつら、おればっかり襲ってくるのか」
「そう。君、いい匂いがするね。僕が食べちゃおうかな。ルナにあげるのは、もったいない」
シオンの指が、うなじをなぞる。
ゾクゾクした。抵抗できない。
「やめなさいよ。シオン。悪趣味なジョーク」
レラが止めてくれなければ、どうなってたことか。
でも、これでわかった。
シオンの言いなりになって、生贄をつれてくる人の気持ちが。
一瞬、どうなってもいい気がした。
シオンは悪趣味なジョークに飽きたらしい。先頭に立って実験室に歩いていく。
今度は反対側から、レラがささやいてきた。
「ねえ、ユウヤ。これから、どんなことがあっても、わたしのことだけは信じてね」
耳元で、ささやかれると、甘いはずなのに。
レラの体臭は変化し始めていた。
まわりの強烈な臭気のせいで、よくわからないが、うっすらと腐敗臭が、まざっているような。
「信じるよ」
とは言ったものの、自信がない。
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