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同じ顔。同じ姿。同じほど美しくても、レラは死体だ。血のかよう生身のシオンとならぶと、その差は歴然としている。生身の誘惑に抵抗するのは難しい。
実験室のドアを、シオンがあける。
前に見たときと変わりはない。人骨のころがった室内。実験器具や資料が放置された机。
「こっちだよ」と、シオンが手招きした。
さっき調べたときは気づかなかった。
資料を入れたスティール製の本棚のわきに、上げぶたがある。
キッチンなどにある収納庫みたいな感じ。というより、この状況だと、中世の城に隠された秘密の入口みたいだ。
シオンが上げぶたをあける。
すると、そこに、さらに地下へと続く階段があった。ほんの数段だ。全部おりても、頭が天井に、つっかえる。
その奥に、人がいた。
ますます中世だ。壁に打ちこんだクサリは手枷だ。その手かせに、両手をつながれて、しゃがんでいる。
まだ少女だ。でも、今までのルナにくらべたら、だいぶ大きい。十五さいくらい。
シオンと同じ、ひききまれそうな黒い瞳の美少女。悪趣味なSMプレイの器具で、口をふさがれている。
入ってきたユウヤたちを見て、何か言った。とはいえ、口をふさがれているので、言葉にはならない。
ユウヤはシオンに問いかけた。
「これがルナ? だいぶ大きいじゃないか」
答えたのは、レラだ。
「成長したのよ。わたしやシオンも含めて、シオンの実験体は爆発成長するの。
ルナは、ふだんは幼体をたもってる。最初の食事をする前は。食後に分裂すると、古いほうの個体は急激に成長する。十さいくらいね」
「つまり、これは一度、人間を食った個体ってことか」
「これが今回の実験体の一号よ」
「こいつを殺せば、残りは一体だね」
だまりこんでいたシオンが口をひらいた。
「そう。だから、さっさと殺しちゃってよ。せっかく面白い症例だから、もっと実験したかったんだけどね。ユウヤ。君がやりなよ」
そう言って、シオンは、ニッと笑う。
「おれが?」
「君がイヤなら、レラがやればいい」
レラは何も言わない。
これは、ユウヤにやれということだろうか?
しかたなく、ユウヤは懐中電灯の光のなかに一歩、ふみだした。
十五さいのルナは、澄んだ瞳で、ユウヤを見つめてくる。
ユウヤの心は、ゆらいだ。
(そんな目で見るなよ……君はバケモノなんだから)
ほっとけば人類を食いつくしてしまうモンスター。わかってる。
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