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わかってはいるけど、いい気持ちはしない。 それでも、ユウヤはメスをにぎりしめた。 クサリにつながれたルナの前に、かざす。 そのとき、『声』が聞こえた。 ーー待って。ユウヤ。わたしを殺さないで。 あの『声』だ。 ずっと、ユウヤに語りかけてきた『声』……。 (わたしを殺す? なんでだ? これは、ルナじゃないか。おれに話しかけていたのは、レラのはずだ) 混乱して思考が、うまく、まとまらない。 ぼんやりしてると、急に悲鳴が起こった。懐中電灯が床にころがる。そのまま、すうっと光が消えた。 争う物音が、つかのま続いた。 そのうち、とつぜん、また静かになる。 (なんだよ……何が起こったんだ?) ユウヤは懐中電灯が、ころがったほうへ手をのばした。床をさぐってると、それらしいものが手にふれた。スイッチを入れる。 (よかった。ついた) 懐中電灯を背後の音のしたあたりに向けた。 シオンが倒れている。美しいおもてを血で染めて。頭を割られて死んでいるようだ。 レラが死体を見おろしている。 その手に持つ斧は血にぬれている。 「レラ……君が?」 「そうよ」 「どうして?」 「どうしてって?」 「だって……君はシオンと一つなんだろ?」 レラは笑った。 なんだか、怖い。 レラがレラで、なくなったような……。 「シオンじゃないもの」 「えっ?」 レラは足元を指さす。 「これはシオンじゃないわ」 どう見ても、さっきまでレラが仲よく話してたシオンだが……。 「どういうことなんだ。ちゃんと説明してくれないと、わからない」 「こいつはルナよ。シオンのふりしてたの。食事を二回したから、成体にまで成長したのよ」 「えっ……でも、おれが前庭で見たのは、この人だった」 「それはシオンだと思うわ。本物の」 レラはできの悪い生徒をからかうような口調で話す。 「よく考えてみて。鍵のかかった部屋のなかに二体のルナが閉じこめられてた。 なのに、なかにいたのは子どものルナが一体だけ。かわりに、自分はシオンだと主張する成体が一人。 両方ルナなんだって考えたら、数があうじゃない?」 「そんな……それじゃ、ルナは自分の分身を殺したってことか? そんなことできるのか?」 「できるわよ。自分が生きのびるためなら。やつらは分裂するけど、増えるために生きてるわけじゃないもの」
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