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たしかに、そうかもしれない。
ルナにしてみれば、どれか一体が生きていれば、『自分』は存在し続けることになる。
「でも……子どものときとは、ずいぶん、ふんいきが違ってたね」
「それはシオンのマネしてたからだわ。ルナはシオンの声色を使うのが特技なのよね」
「斧は、どこから出てきたんだ? 病室のなかにはなかった」
「ルナが持ちこんだんでしょうね。病室に侵入するとき」
「ここって、そんなに、あちこちに斧とか、ころがってるんだ?」
「銃はないから安心して。シオンは刃物が好きなの。ムダに買い込んでくるから。きっと、そのへんに放置してたのよ」
ユウヤは、ため息をついた。
まともな思考では、ついていけない。そんなことは、とっくにわかっていたが……。
「わかったよ。じゃあ、こいつがルナの最後の一体? これを始末すれば、すべて終わり?」
レラは笑う。
なぜか、悪魔のように見える笑み。
悪魔は悪魔でも、サキュバスだ。
「待って。これは、ルナじゃないわ」
「ルナじゃないって……」
「シオンよ」
ユウヤは首をふった。もう、わけがわからない。
「おれが前庭で見たときと、姿が違う」
「そう。それが、シオンが現状に満足しないわけなの」
レラは少女の姿をした『シオン』のもとに歩みよる。
「わたしたちの今の体は、まったく別人の細胞の遺伝子を組みかえて、クローン化したものなの。
そして、一体化したとき、わたしは十五さい。シオンは二十五さい。
だから、成長期の体と成体と、情報が二重になってるのよね。
かんたんにいえば、気分で見ためが変わってしまうの。少女のわたしと、成人のシオンと。
わたしたちの魂が完全に融合してしまえば、こんなこともなくなると思うけど。
わたしは今のままでいいの」
そう言って、レラはクサリにつながれたシオンのポケットに手を入れた。ポケットから鍵のたばが出てくる。
「ほら。マスターキーを持ってる。ルナに捕まるなんて、ヘマをしたのね。シオン」
「てことは、これがルナ一号で、実験のために捕まえておいたっていうのは……」
「ルナのついたウソよ。シオンのふりして、あなたに、わたしたちを殺させようとした。自分の手で創造主を殺すことは、さすがに、ルナにもできなかったってことね」
「なんかもう、どれがウソで、どれがホントのことか、わからない」
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