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言うと、今度は物悲しい顔になる。
「きっと、この体が崩壊しかけてるせいね。理性をたもつのが難しくなってきた」
それなら、しかたない。
一刻も早く、最後のルナを見つけないと。
実験室のなかには、ルナはいなかった。
四人で、ふたたび、ろうかに出る。
アッと、キリトが声をだした。
「あそこ、人が!」
ろうかの奥を人影が、よぎった。
ユウヤは走った。キリトも。
レラはシオンをつれてるので、早く追ってこれない。しだいに、ユウヤたち二人から遅れる。
人影が、はっきり見えた。
まちがいない。ルナだ。少女のシオンと同じくらいの年齢だ。
今度は、ユウヤも必死だ。レラがこわれてしまう前に、すべてを終わらせる。迷わず、メスをふりかざす。
「やめてッ!」と、ルナは叫んだ。
「わたしよ。ナツキよ! なんで、わからないの?」
あまりにもヘタなウソ。
万策つきたのだ。
(もう、だまされないからな)
人を傷つけるのも初めてじゃない。ためらいなく、ユウヤはメスをつきさした。
ちゃんと心臓に刺さっただろうか?
ルナは悲鳴をあげて倒れる。
「やった! これで全部だ。レラ、全部、始末したよ!」
遅れてやってきたレラは、ほほえんだ。
いつものレラの笑みだ。はかなげで、でも、気高い。
ユウヤは胸が痛んだ。
これで、すべてが終わった。レラの目的は果たされた。レラは帰ってしまうだろう。あの冷たい氷の眠りのなかへ……。
(お別れなんだな)
たまらなく、愛おしい。できることなら離れたくない。
ユウヤは別れを先延ばしするために言った。
「ナツキさんは、どこだろう? 彼女がシオンの協力者だったんだろ? それでも、つれてかえらないとね」
地下室をくまなく探した。
ナツキは死体安置所にいた。コンクリートの床に、うつぶせに倒れているところを見つけた。 ユウヤが手をかけると、すぐに気がついた。
「わたし、なんで、こんなところに……」
「おぼえてないの?」
「そうだ。ルナに追いかけられて、逃げまわるうちに、こんなところまで……」
「ルナは、もういないよ。帰ろう」
これからのことは、そのあとだ。
ナツキは裏切り者だ。ナツキのせいで、みんなが死んだ。罪は、つぐなってもらわなければ。
手を貸して、ナツキを立たせる。
そのとき、また、あの音を聞いた。カタン、カタン。カタン、カタンと。
(なんだ? あの音。ずっと聞こえる)
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