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考えているところに、レラがシオンをつれて入ってくる。
「わたし、もう帰らないと」
「君は、どうなるの? その体が眠りについたら?」
「また、シオンと一つになるだけよ」
「つまり、シオンの体に帰るってこと?」
「ええ。意見に反対したわたしを、シオンが深層意識に追いやって、出してくれなくなったの。
だから、魂だけで抜けだして、この体に入った。シオンを止めるためには、それしか方法がなくて」
「魂だけって……そんなことができるんだ」
「あなたのおかげよ。あなた、特殊な力を持ってるでしょ? その力が、わたしの能力を増長してくれた。わたしも、あなたと同じなのよ。『見える』側の人間だから」
「今、帰ったら、またシオンに閉じこめられるんじゃないの?」
「それはないわ。もうルナはいなくなったし。わたしたちの対立する理由がなくなった」
「でも、シオンは、また暴走する」
「わたしが、ちゃんと見張ってる。心配しないで」
「そう……」
引き止める言葉がなくなってしまった。
ユウヤはレラを見つめた。
レラも、ユウヤを見つめる。
そして、そっと、唇をふれあわせた。冷たい感触が一瞬だけ、ユウヤをしびれさせた。
「さよなら。ユウヤ。わたしが、このなかに入ったら、シオンの手錠をはずしてあげて。あのなかに、ちゃんと、わたしもいる。わたしたちは、また一つになる」
「わかったよ」
レラは手錠のカギとマスターキーのたばを、ユウヤに手渡してきた。壁の安置ボックスを自ら、ひきだす。
そのときだ。
「いやよ! シオンと一つになるのは、わたしよ。なんでなの? なんで、わたしじゃダメなのよーッ!」
叫んだのは、ナツキだ。
ナツキは叫びながら、シオンに、ぶつかっていった。
シオンは、あっけなく倒れた。ほんとに、あっけなく。まるで、魂のない人形みたいに。
見ると、ナツキは手にメスをにぎっている。メスのさきから、ポタポタ、血のしずくが、したたりおちる。
「……なにしてるんだ。ナツキ」
ナツキは激しく泣きわめく。
「これで、シオンは、わたしのものよ。誰にも渡さない。誰かに渡すくらいなら……」
だから、殺したというのか。
女の執念に、ユウヤは、ヘドが出た。ウンザリする。
おそらく、ナツキは、どこかでシオンに出会い、その美貌の虜になった。
アスヤに近づいたのも、獲物を調達するため……。
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