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何もかも終わった。
レラも動かない。シオンも動かない。ナツキも。
これで、実験は終わった。
悪魔は去った。
かなり経って、ぽつりと、キリトが言った。
「帰ろうぜ」
ユウヤは無言で歩きだした。
地下をぬけると、外は明るくなっていた。
また、キリトが、つぶやく。
「みんな、夢みたいだ。ここであったこと」
そう。夢。夢なら、よかった。
あれが夢だったなら、こんなにも深い喪失感を味わうこともなかったのに。
(レラ……シオン……)
おれは、けっきょく、どっちに惹かれてたんだろう? レラ? それとも、シオン?
そんなことさえ、わからない。
今さら、たしかめようもない。
二人はいなくなってしまった。
建物を出て、前庭を歩きながら、キリトが言った。
「なあ、おまえさ。普通と違う力があるんだな? 前から、そうじゃないかと思ってたけど」
もう隠す必要もないだろう。キリトには。
むしろ、打ち明けないと納得してくれない。
それで、自分の力のことを、全部、話した。
「へえ」と、キリトは、うなずく。とくに驚くようすもなく。
「死者や死に近いとこにいる人の顔だけ、はっきり見えるーーか。どおりで……」
「気づいてたのか?」
「なんか、そんな感じがしてた。おまえ、前に、うちの親父が死ぬ前、変だったもん。親父の顔、まじまじと見てさ。おまえって父親似だったんだなとか言って。それまでにも、何度も親父には会ってたのに」
そういえば、そんなこともあったかも。
あのころは、キリトの家は裕福だった。
(死ぬ前の人だけ鮮明に見える能力か。こんな力、いらなかった)
中学のころだ。
母の顔が、とつぜん見えたときは悲しかった。もうすぐ死ぬんだとわかって。
あの思いをキリトにはしてほしくなかった。だから、言わなかった。
ふいに、キリトが立ちどまった。ユウヤを見つめる。
「あのあと、すぐに、親父は死んだ。おまえ、知ってたんだよな。親父が死ぬこと」
「……うん。まあ」
「なんで、話してくれなかったんだ?」
「言っても信じてくれなかっただろ。それに、おれには見えるだけで、それを止める力はないし」
「でも、知ってれば、ぜんぜん違うだろ。何かできたかもしれないのに」
「できないよ。経験済みなんだ。それ以前に、何度も。祖父のときも、祖母のときも、母のときも、そうだった。飼い犬のショコラが死んだときも。いつだって、そうだ!」
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