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「決めつけるなよ! いいか。親父は自殺だったんだ。経営してた会社が倒産寸前だった。自分が死ねば保険金が入ると思ったんだよ。
知ってれば、止めたのに。おれや、おふくろが。そんなもん、いらないから、生きててくれって。止めたのに!」
ショックだった。
たしかに、それなら望みはあったかもしれない。家族が必死に止めていれば……。
「親父を殺したのは、おまえだよ。ユウヤ」
つぶやくキリトの顔を見つめる。
とうとつに、気づいた。
(あれ? なんで、まだ見えるんだ? キリトの顔……ルナもシオンもいなくなって、危険はなくなったはず……)
見えないはずのものが見えるとき。それは、死が近いときーー
いきなり、キリトが突進してきた。
その手にハサミを持ってる。
病院のなかで見つけた武器がわりのハサミを……。
走馬灯のように、記憶の切れ端が浮かんだ。
最後の一体。ルナはユウヤに殺されるとき、叫んだ。わたしはナツキよ、と。
(レラにできることは、シオンにもできる。じゃあ、彼らの分身であるルナにも……)
そうだ。あのとき、入れかわってたのだ。
ルナのなかには、ナツキが入っていた。
ナツキのなかに、ルナが。
ということは、レラを殺したのは、ルナ。
ユウヤがナツキだと思ってたのは、ルナだった。シオンに執着してたのは、それがルナだったから……。
(違う! だとすると、ナツキは裏切り者じゃない! 裏切り者はーー)
ユウヤは叫んだ。
「裏切り者は、おまえか! キリトッ!」
今さら気づいても遅い。
キリトのかざす凶刃は目の前に、せまっている。
殺されるーー
そう思ったとき、わッとキリトが声をあげた。激しく、たじろいで、あとずさる。
キリトの上に、女が、のしかかっている。
いつものやつだ。
いつも、いつも、ユウヤにつきまとって離れない女。
こいつのせいで、彼女もできない。
死に顔のまま、あらわれて、彼女を追いはらってしまうから。
(最初は感動したけどね)
若くして死んだ母。
遺していく一人息子が心配で、この世から離れない。
しかし、おかげで、キリトの攻撃がゆるんだ。
ユウヤはキリトの手からハサミをうばおうとした。もみあううちに、そうなってしまったのは、わざとじゃない。
ぎゃッと、キリトが断末魔の声をだす。
ハサミは、キリトの胸に刺さっていた。
「キリトーー!」
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