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ふざけてるうちに、いつもの調子に戻ってきた。
そうだ。神経質になりすぎてたんだ。なんでもない。ただの廃屋だ。ふんいきありすぎるから、みんな、ピリピリしてたんだ。
そう思った瞬間だ。
わッとアスヤが変な声をだす。
「なんだよ? もう、その手には乗らないからな」
悪ふざけだと考えたのだろう。ヒロキは笑いながら、アスヤの背中をたたく。ところが、アスヤは迫真の演技を続けている。ひきつった顔は演技にしては、うますぎた。
ユウヤは不安になった。
「アスヤ? どうかした?」
アスヤは顔をひきつらせたまま、かすかに首をふる。
「……べつに。見間違いだよ」
「ふうん」
ようすが変だ。アスヤは、あまり悪ふざけするタイプじゃない。ふだん、すすんで、ふざけるのは、ヒロキやナオトだ。
ヒロキも妙なふんいきを感じたようだ。急に、だまりこむ。そして、病室に入っていった。
「この毛布。使えるんじゃないかな?」
話題を現実的な問題に、すりかえる。
「うん。衛生的には、ちょっと、どうかと思うけど。まあ、使えるかも」
とにかく、他の三人のところへ早く戻りたい。それで、そのへんのホコリまみれのフトンを持って、ひきかえした。
ところがだ。
もとのホールに帰ったとき、そこにマサルはいなかった。
「あれ? マサルは?」
懐中電灯の光で人数をたしかめながら、ヒロキがたずねる。
「さっき、急に、ふらっと出てったんだよ」と、ナオト。
「えっ? この雨んなか? なんで行かせたんだよ?」
「だって、ベンジョかなぁと」
しばらく待っても、マサルは帰ってこない。
「どこ行ったんだ? あいつ」
「探したほうがよくないか? 迷ったのかも」
「迷うほど遠くまで行くかな? こんだけ降ってるのに」
しかし、現にマサルは帰ってこない。
「やっぱ、探そう」と、ヒロキが言った。
玄関扉に手をかけて、あわてふためく。
「あかない!」
「あかない?」
「こんなときにまで、ふざけるなよ」
アスヤとナオトが、ヒロキを押しのける。しかし、ドアに手をかけると、二人もあわてた。
「ほんとだ……」
「あかないよ」
ユウヤも試してみた。ウソじゃなかった。カギがかかってる。
「なんでだ? さっきまで、あいてたのに」
「誰かが外からカギかけたんだ」
「誰かって誰だよ?」
ヒロキやナオトたちが言いあう。
それを聞いていたキリトが、核心をついた。
「マサルだろ」
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