旅の終わり

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突き抜けるような真っ青な空には 人の心まで飛び立たせるような 不思議な力が きっと ある くたくたのTシャツから伸びた細い首 穿き古した半ズボンから痩せた足 どこかナヨッとした薄茶色の癖っ毛 観る者が観れば 普通の子供と違うのはきっと 目付きで解る もう いやだ そう思ったらバスに乗っていた お金はいらない 大人の後ろに付いて乗車すれば 運転手は勝手に家族と勘違いしてくれる どの子供にも知恵がある どの知恵を使うのか 自分で選べると思っているのは この世界に この子だけかも知れない… 知らない地名と青い空だけが 心を解放してくれる 夏の日の まだ見ぬ世界 街はどんなに広くても どんなに人が多くても 君たちの景色に僕はいないし 君たちも僕には景色にすぎない ならば せめて寄り添う景色に会いたくて 踊り回る新緑と陽光を映す 真っ白なガードレールは頂上まで バスの窓でっかく開けて 臙脂色の天鵞絨の背凭れに あずける体に風を受け入れたら ヒコーキ雲が笑った 山間の赤い鉄橋は緑に映える 渓谷の急流の白い飛沫が 太陽を反射している あんなにつまらない街は あんなに小さかったっけ ここから見ると霞むほどの悩みは 自分のせいじゃない 忘れてしまう こと 展望台に吹く天空のそよ風は 囲われた草原を茶化す バスはハイウェイを颯爽と翔る 楽しそうな観光客を尻目に… 誰に逢える? 何に出逢える? 少し膨らんでは消える楽観 問題をすり替える罪悪感 また逃げたという劣等感 晴れ渡る見た事ない景色に 誤魔化してばかりの少年を乗せて バスは走る 傾斜の緩いヘアピンカーブが続く 一体 幾つのヘアピンカーブを過ぎれば 目的地にたどり着くのか…
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