旅の終わり

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あたたかい… オレンジ色の柔らかいお湯の中で 体を丸めて漂うだけ… 幸せな気持ちだった… 眼を瞑り…すべてが観える 愛があり…愛がある やすらぎがあり ゆとりがあり いたわりがあり いつくしみがあり やしないがある ここにいのちにひつような… すべてがある ないのは 終わりだけ… 終わる事の無い 尽きる事を知らない 愛があり…愛があるだけ その子は夏の陽射しと優しい風とバスに揺られて夢を見ていた お湯から顔を出すと お湯の中で聞いた声 柔らかで大きく白く丸い者が… 声の主が… 撫で、包み、抱え、抱く 惜しみ無く注がれる愛を糧にして 育つ愛の塊 心と体 それなのに その柔らかで大きく白く丸い者の 顔だけが見えない 白いシルエットは白いシルエットのまま… どんなに眼を凝らしても… 白いシルエットのままで こちらの伝えたい事が伝わらない 笑顔を返したいのに 柔らかで大きく白く丸い者の顔が 見えない… 体が揺すられて 目覚めると泣いていた バスは停車してる 見渡すと乗車してるのはその子ただ1人 温和な初老のバスの運転手が見つめている 「ここでいいのかな?終着だよ。」 「しゅうちゃく?」 「ああ、このバスはこの先何処にも行かないんだよ」 「ここでいい。この近く。」 「こんな何もない所に?お父さん、お母さんは?」 「1人で来た」 初老の運転手は悲しげな顔で それ以上は何も聞かず その子をバスから降ろした 「気をつけて…」 「ああ、このバスはこの先何処にも行かないんだよ」
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