線。

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 普通の中学生だった。    仲間と遊んで、たまに塾に行って、可愛い女のコにドキドキして、ヘッドホンを装着しながらエロDVDを見る様な、どこにでもいるただの男子中学生だった。  ある日、そんな俺に仲間の1人が、  『すげぇカッコイイMV見つけた。帰ったら検索して見てみろよ』  と、あるバンドのMVを俺に紹介してきた。  名前も聞いた事のない、恐らくTVにはあまり出ていないだろう、そのバンド。  寝る前にその言葉を思い出し、ベッドに転がりながらスマホを弄り、ネットでMVを検索した。  衝撃が走った。  音が、映像が、何もかもが、格好良かった。  格好良すぎた。  特に、俺の目を奪ったのが、ギターだった。  そのプレイが、指先が、唸る様に叫ぶ様に鳴る音色が、俺の心を鷲掴んだ。  俺にとっての『音楽』の立ち居地が変わった瞬間だった。  今までも音楽は好きだった。    通学時には、必ず耳にウォークマンのイヤホンを突っ込んでいたし。  ただそれは、流行に乗っかっていたかったから。売れている歌を覚えて、カラオケでみんなと盛り上がりたかったから。  だから、あまりメディアに出てこないバンドの事は知らなかった。  こんなにも鳥肌が立ち、背筋がビクつく音楽が、この世にあるなんて知らなかったんだ。
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