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居酒屋を出ると、マネージャーが捕まえてくれたタクシーに乗り込み、病院に向かう。
病院に着き、救急受付にいた看護師に秋がいるという部屋を案内された。
部屋の前には警察の人間と、秋の家族がいた。
秋の家族に会った事はないが、秋に写真を見せてもらった事があるから、顔を知っていた。
写真の中で楽しそうに笑っていた秋の家族が、絶望に打ちひしがれながら嗚咽していた。
…気持ちが悪い。頭痛がしてきた。吐きそう。
死んだのは、本当に秋だというのか。
呆然と立ちすくんでいた俺に、号泣をしていた秋の母親が気付いた。
そして、秋の母親がゆっくり俺に近づいて来た。
「桜沢悠斗さん…ですよね? 娘から話は聞いていました。…こんな形で挨拶をする事になるなんてね。今まで娘と仲良くしてくださって、本当にありがとうございました。…これ、娘が握り締めていたものなんですが…」
秋の母親が俺に手渡そうと、俺の前に何かが握られている右手を差し出した。
それを受け取ろうと掌を広げると、そこに何かを乗せる秋の母親。
「…これ、私が持っていても良いものなのか、アナタに持っていてもらえば良いものなのか分からないんです」
俺の掌に、秋の母親の涙が落ちた。
俺の掌に乗せられていたものは2つ。
1つは、前に秋にプレゼントした、秋のサイズも聞かずに買ってしまった、大きすぎて親指にしか合わなかった指輪。
もう1つは、血まみれになって文字が潰れてしまっている、今日の俺のライブチケットの半券だった。
--------------秋は、俺のライブを見ていたんだ。
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