断線。

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 遺書は、無かった。    家族にも、俺にも。  秋は、何を思って死んだのだろう。  苦しむ秋から目を逸らした俺を、どう思っていただろう。  秋をツアーに連れて行っていれば、こんな事にならなかったのに。  何で俺は逃げてしまったのだろう。  後悔で頭がいっぱいになる。  「…会いたいよ」  会って謝りたいよ。今度は絶対に逃げないから。秋とちゃんと向き合うから。  会えないと分かっていても、それでもどうしても秋に会いたいんだ。  秋に会いたくて、会いたくて。  通夜に出て、告別式に行って。  そこにいた秋は、生前の姿に近い状態に戻してもらった綺麗な顔で、棺の中で眠っていた。  でも、寝息はなくて。  顔を触っても、凄く冷たくて。  会いたかった。顔が見たかった。  でも、違うんだよ。  どんな形でもいいから、生きている秋に会いたかったんだよ。  「…こんなの嫌だよ。もっとずっと一緒にいたかったんだよ。一緒に生きたかったんだよ。ゴメン。俺、もう逃げないから。だから、起きて。お願いだから」  棺の中の秋の顔に、俺の涙が零れ落ちた。
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