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「…ずるいよ、秋。自分だけ俺の姿を見て逝くとか。なんで教えてくれなかったんだろう。俺、秋が見に来てくれてた事、知らなかった」
俺を好きなら、なんで秋は何も言ってくれなかったの? なんで俺から離れて行ったの? なんで俺を残して死んだの? 分からない。分からない。
「教えてたら秋さん、死ななかっただろうな。死ねなかっただろな。秋さんには、自分の死を誰かに止めて欲しいって想いが、もう微塵もなかったんだろうな。だから誰にも言わなかったんだろうな。苦しかっただろうね、秋さん。小説を書けなくなった事も。悠斗の傍を離れる事も」
『苦しかっただろうね』というマネージャーの言葉が刺さる。
秋はどんなに苦しみもがいていたのだろう。
秋が投身したのは、ツアー会場近くの15階建てのビル。
あんなに高い場所から。
どんなに怖かっただろう。
どんなに痛かっただろう。
苦しくて辛くて惨い死に方を選んでしまう程に、秋は追い詰められていたのだろう。
なんで俺は何もしなかった? どうして…。
考えたところで秋が息を吹き返すわけでもないのに、それでも『もしもあの時』と架空の過去を作っては悔しさで涙を垂れ流した。
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