支度始め

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支度始め

その日、目が覚めたとき、サリは胸が高鳴っていくのを感じて、カィンのことを思い浮かべた。 …大丈夫、出来る。 次第に落ち着き、息をつくと、寝台から下りて身支度をした。 今日は藁(こう)の日。 世界にひとつしかない大陸のほぼ中央に位置するここ、アルシュファイド王国に住む人々の大半が休日とされている。 王国南部の王都レグノリアにある四の宮のひとつ、水の宮も休日として、姉のカリは謁見を行わず、サリも仕事を言い付かることがない。 だがサリは身支度を急ぎ、階下におりると、用意された朝食を摂る。 次いで食堂に入ってきた、従兄にして義兄のイズラは、大きくあくびをしながら情報伝達紙で口元を隠した。 隠しきれていなかったが。 イズラは、何気なく食堂を見回して、食事中のサリに気付き、のんびり挨拶した。 「あれ、サリ、おはよう。今日は休みなのに早いね?」 サリは口元を拭いてから、にっこり笑って言った。 「おはようございます、お兄さま。今日は用があるんですの」 イズラは、おや、と微笑んで言った。 「カィン君と待ち合わせかい」 途端にサリは真っ赤になって否定した。 「ちちち違います!ミナの護衛の騎士さま方と約束があるのですわ!」 ああ、彼女の護衛ね、と呟いて、ん?とイズラは首を傾げた。 「護衛の者と何をするんだい?」 サリは突然の衝撃に、まだ鼓動が大きく早い。 上ずった声で答えた。 「ととと特訓ですわ!力の制御と術の練習をしますの…」 言葉の後半、ようやく落ち着いてくる。 「ああ、セルズに向けてだね…大丈夫かい?お役目に響くといけない」 サリは大きく頷いた。 「ちゃんと気を付けていますわ。ありがとうございます、お兄さま」 にこり、と笑むと、イズラも笑顔を返す。 「さて、私もご飯を食べなければ…頼むよ」 控えていた給仕に声を掛け、席に着く。 サリは食べ終わり、イズラに挨拶して席を立った。 部屋に戻り、身支度が整うと、すぐさま邸を出る。 約束の時間にはまだあるが、気が()いて仕方がない。 水の宮の裏扉を守る衛士に挨拶して中に入り、修練の準備をする。 それから、気を静めて待つ。 …大丈夫、出来る。 そうして、やがて時間となり、表扉の開錠が旅の支度の始まりを告げた。
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