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そして、彼女は夫に
「邪魔したら悪いから、帰りましょう」
と、提案した。
「なんだよ、藪から棒に」
「じゃあ、どんな顔してお店に入るんですか。やめた方が良いと思いますけど」
「ま、まあなあ」
「じゃあ、帰りましょう」
彼女は、楓と夫の背中を押しつつ。家路に向かった。
「しかし、母さん。少女の様に目を輝かせて幸せそうにしてたな・・・・」
「そりゃ、恋ってそう言う物でしょう」
「悔しいな、店主の優しげなまなざしと、男前過ぎる風貌」
「あらあら、嫉妬ですか」
聡は、失恋でもしたような顔だ。
「別に母さんの幸せを喜んでいるだけだ」
強がりを言う聡と、千鶴、楓の影が街角に長く伸びていた。
あの晩から、毎日サカエさんは夕食を断って出かけている。
「アタシも、年だからね。食事も少なくて良いようになったんだろうね」
と、お得意の自己流解釈を振りかざし、部屋に戻っていくようになった。
毎晩、誰にも知られず味よしに通えていると思っているらしい。
そして、聡は毎日落ち着かない。
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