SAKAEバアサマに乾杯

5/8
前へ
/23ページ
次へ
しかし、毎日幸せそうに味よしに通う母親を見て堪らなくなったらしい。 彼は突然立ち上がると携帯電話をひっつかみ、どこかに消えていった。 「お父さんどうしちゃったんだろう」 「何かする気よ、きっと」 妻の予想は、どうやら的中していたらしい。 彼は勤め先に苦しい言い訳をして有休を取得しているようだった。 その日の午後、聡は味よしの専用駐車場にいた。 「ちょっと、早急な気もするけれど。こうでもしないと、心配でいられん」 ひとり言を言いつつ、何かを手に彼は車から出た。 赤いのれんが、取り込まれるのを待っていたのだ。 入り口を開けると休憩に入ったのか、カウンターで新聞を開く年配の男性と目が合った。 「お客さん、申し訳無いけれど休憩中なんですよ」 店主は立ち上がって、申し訳無さそうに頭を下げた。 「あの。私、石川と申します」 そういった瞬間に、目の前の男性はハッとして頭を下げたままになってしまった。 「突然すみません、お話したいことが」 その声に、彼は申し訳無さそうに顔をあげると 「私、小林源太郎と言います。お母様、いえ・ ・・サカエさんには大変 お世話になっております」 と、挨拶をした。 「こちらこそ、母がお世話になりまして」 挨拶が済むと、源太郎は椅子を引き聡に勧めた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加