序章

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おかえりを言いたくて、待ち続けてシワシワになっちゃったよ。 今更、トシさんが戻って来ても見せられる顔じゃなくなっちゃったね。 彼女が、いつも夕刻に夕焼けを見つめながら言う台詞。 サカエさん、御年80歳。 老いて益々元気溌剌。 昭和20年から、ずっと愛するトシさんを待ち続けて片思い歴70年。 一途で、片思いの筈が・・・。 別の人と結婚して子供を産んで、孫を抱いて。 でも、まだ待っているらしい。 終戦の時、あんたは10歳じゃないの?という突っ込みを物ともせず。 遅い初恋だったんだよ、あの人には妻子がいたけれど。 と、うっとりできる神経の持ち主。 夫を亡くした女性とは違う彼女は、幾つになっても恋するヲトメといった感じ。 18歳になった孫の私のお尻を、これまた全力で叩いて。 恋をしなさいよヲトメが何をぼさーっとしてるのさ!と、豪快に笑う。 おかえりを言うべき夫も、30年前に亡くして。 「アタシのお帰りは不吉さ、早死にするわ。  あの世への片道切符じゃないと良いけどね」 笑い飛ばす笑顔が眩しい。 朝5時半、今日も彼女の起床時間です。
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