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「サカエちゃん、ちなみに住み込みは正社員。通いは、パートで。自信が無ければ、パートから
始めて欲しいと思っているのだよ。正社員なら、契約書を持って来たので・・・・」
彼が差しだした紙には「婚姻届け」と書かれていた。
それを見た、サカエさんの目には薄らと涙が浮かんだ。
「馬鹿だね、アンタ達は。源さん、アンタまでこの子達に担がれたのかい。本当に馬鹿だよ」
「サカエちゃん、俺たちはもう残された時間は少ない。若い子みたいに、のんびりとお試し期間
何て言っていられない。考えてたら、死んでしまうからね。
君の事を思って、私の所を訪ねてくれたんだ。良い息子さんだ」
彼女は、くるっと後ろに立つ息子をふり向くと、握った拳で息子の鳩尾に渾身の一撃を食らわせた。
「うごっ、か・・・母さん!」
綺麗にヒットした拳に、体をくの字に曲げて聡はうなり声を上げた。
「馬鹿息子の暴走、申し訳ありませんでした。源さん。
もし、この求人。貴方の心からの提案でしたら・・・」
サカエさんは、そこで言葉に詰まる。
「サカエちゃん」そう言い、彼女の肩に源太郎は手を置いて婚姻届けを差しだした。
それを、なぜか勢いよく受け取ると。
流れた涙を隠さず
「アタシは、自信があるからね。最初から正社員じゃないと、働かないよ」
源太郎の後ろに立つ、嫁と孫を見てそう言い放った。
「サカエさんは、そうでなくちゃ!」
楓は、大声で笑うと背中に隠していた花束を取りだした。
なぜか、真っ白な抱えるほどの花束。
それを受け取った源太郎は、サカエさんをゆっくりと引き寄せると花束を渡した。
「私も、貴方も。亡くなった配偶者がいる、どうしても遠慮が出るだろ。
だから、この花束は真っ白なんだよ。亡くなった人へのはなむけ、2つに中で分けて貰ってある。
2つに分かれた花束だから、これから君の旦那さんと、俺の奥さんの所に手向けに行かないか」
「源さん・・・あんたって人は、いい人だよ」
「じゃあ、あの世の人達に許しを乞うたら社員登用ということでお願いします」
「はい、喜んでお受けします」
それを見て、嗚咽しながら涙を流す聡。
苦笑いの嫁、千鶴子と。祝福の拍手をする、孫楓。
この日、石川家は大きな幸せに包まれたのだった。
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