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良く晴れた、秋晴れの午後。
サカエさんの荷物が、味よしの2階に運び込まれた。
「思ったより時間が掛かったね」
という楓に
「そりゃ、そうよ。結婚となると、あちら様のお子さんたちもいらっしゃるし簡単には行かないのよ。
楓も10年もすれば経験することだから、覚えておいても良いんじゃ無い」
母は楽しそうに笑うと、源太郎の家族の待つ2人の新居に入っていった。
彼女も、差し入れに買ってきたペットボトルの入った袋を重そうに「よいしょ」っと持ち上げた。
「もう、お母さんたら。お菓子だけ持って、こっちも手伝ってよ」
味よしの2階にあがる階段は、鉄剥き出しの下が見えるタイプの物だ。
踏み板に凸凹の加工がしてあるとはいえ、大きな袋を持って歩くと滑りそうだ。
手すりをしっかり握り、一歩一歩踏みしめて歩く楓。
すると、突然手に持った荷物がフッと軽くなった。
「もしかすると、楓ちゃん。俺持つから」
楓は、かなり高い位置から聞こえた声に反射的に上を向いた。
「あっ」
優しそうな良く日に焼けてた、源太郎と気持ち雰囲気と面立ちが似ている青年が立っていた。
「えっと、もしかして源さんのお孫さんですか」
「はい、なんかオヤジは爺さんに似てないのに。俺がそっくりで、いつも笑われるんですよ」
嬉しそうに笑うと「行きましょう」と、軽々と荷物を担いだ。
「まさか、爺さんが再婚するなんてね。楓ちゃんも驚いたんじゃない」
爽やかな笑顔に、完全にノックアウトされた彼女は声が遠くで聞こえる気がして軽く目眩がする。
「あ、はい。でも家の父は、大賛成だったので」
「俺も、賛成だな。爺さん、あまり笑わない気むずかしい人なんだけど。
サカエさんに出会ってから、良く笑う様になってオヤジも喜んでたよ」
「あはは、そうなんですか」
「恋するって良いね、俺もいい人探さないと。爺さんに出し抜かれるとは思わなかったよ」
「私もです、彼氏いないし」
彼女は恥ずかしそうに下を向いて、最上段の踊り場で玄関のドアを開けた。
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