東雲 桜花

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限界まで近付いた私はゆっくりと座る。 未だに唸っている。 今にも噛みついて来そうな勢いだ。 私がどういう行動をおこすか、警戒しているのだろう。 私は、近くで顔を見る。 最初は怖かった。けど近くて見たその顔は、何だか悲しそうな顔に見える。 私のその行動に父も、驚いたのか。 「桜花・・・何をしている。」 「分かりました。お父様。心で祓うというものを。 理解できました。」 「桜花・・・・・・お前。」 最初は緊張してた。それが恐怖に繋がっていた。 だけど、もう怖くない。 私はゆっくりと目を閉じ。 心で詠う。 「鎮まりたまえ。」 自分でも驚くほどの優しい声だった。 父が息を飲む音も聞こえた気がした。 いいんだよ?もう。休んでいいんだよ? もう一度詠う 「・・・鎮まりたまえ。」 さっきまで唸っていたソレは今は大人しい。 それどころか目に涙を浮かべてさえいる。 私は指でそっと拭ってあげる。 そして、その頭を撫でてあげる。 瞬間、取り付いていたモノは光の粒となって天井へと吸い込まれていった。 「お父様。終わりました。 これでどうでしょうか。」 父は、口を開いたまま答えてくれなかった。 私は、聞こえなかったのかと思い、父の近くに寄りもう一度繰り返す。 「お父様?終わりました。 これでどうでしょうか。」 「桜花。お前、今何をした?」 父の言っていることが分からない。 「何をって・・・・・・え?」 「アレは、祝詞を唱えないと祓えないくらいに深く憑いていたのだぞ。 それをたった一言、 そんなこと私には出来ない・・・」 「そ、そうなのですか?私はただあの子の顔を見て悲しそうだったのでもう休んでもいいよって願いながら言っただけです。」 「か、悲しそうだと?お前にはそう見えたのか。」 「は、はい。お父様は違うのですか?」 「私には怒ってるとしか見えなかった。だから深く憑いているのだ。 そして、それは祝詞でしか祓えない。 しかし、お前はそれを悲しく見え、あまつさえ一言で祓うとは・・・・・・」
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