Lab animals

静かな日常と小さな好奇心

うに学習したものであって、実際そう感じたりすることは決して無い。
　ところで、さっき先生と言ったが、僕の学校の先生はアンドロイドではなく人間だ。いや、全国どの学校の先生でも、みんな人間である。いくら高性能のアンドロイドができたからって、人の心と密接に関わらなければいけないような仕事、あるいは繊細さが必要な仕事は、まだ人間がやっている。例えば医者やカウンセラー、弁護士、先生、それとプログラマや整備士も、人間であることが多い。
　では世の中の人類みんながそういう仕事についているかと言えば、そういうわけでもない。専門職につかなかった人たちは、「のんびり」している。ではその「のんびり」している人たちが、日々どうやって生きているかと言えば、国からの”給料”で生きている。アンドロイドたちがせっせと働いて産み出してくれた利益を、僕たちのんびり屋が頂いているわけだ。なんだか申し訳ない気もするが、ここまでやってきていきなり物々交換の文化には変えられなかったらしい。何かを得るには基本的にお金が必要だ。
　国から全員平等に”給料”をもらって、その中で好きなものを手に入れる。噂によると、専門職の人たちは僕らより少し”給料”が高いらしい。
　そんな世の中だから、僕のような学生で、世話をしなきゃいけない家族もいないのんびり屋たちは、学校が長い休みに入ると暇で暇でしかたがない。暇で暇でしかたがない僕は、夏休みの初めにその暇を潰すために都合のよいアルバイトを見つけてしまったのだ。

　急募！一週間の間、あなたの普段の生活をみせてください！
　当社がご用意するアパートの一室で一週間を過ごすだけの簡単なお仕事です。
　新たなアンドロイド開発の為、人間の行動パターンを研究します。あなたのプライバシー、個人情
　報は当社が責任をもって守りますので、安心してご応募ください。
　給与は基本的に専門職相当、希望があれば応相談。
　まずはこちらまで、お気軽にお電話を！

　専門職の人たちがもらっている給料がいくらなのか知りたい。そんなちいさな好奇心で、僕はこのアルバイトに応募した。しかもただ普通に生活するだけでいいなんて、最高じゃないか。
　このアルバイトが後に僕を変えてしまうなんて、いや、変えられたと思い込んでしまうなんて、僕は予想もしていなかった。