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「-っ」
仕方ない
決意を決めて、彼の顔を見る。
「・・・前に院長が言ってたのよ。貴方に「幸せか」って聞いて、それで答えがイエスなら、日生ちゃんも憎まれがいがあったんじゃないか、って」
「そう、ですか」
一瞬で、彼を纏う空気の質が変わったのが分かった。
「大丈夫?」
「ええ」
流石に不安になって彼の傍に行くと、途端に唇を奪われた。
「・・・」
やっぱり、不安なんじゃないの
触れるだけの浅い口づけは、何度も角度を変えて私の唇を食む。
最後に私の胸に飛び込むようにして甘える彼は、例えるなら大型犬という比喩が正しいと思わせた。
やれやれ、と仕上げに頭を撫でてやった時、私の視界に時計が飛び込んでくる。
時刻はそろそろ十一時になろうかというところだ。
「ちょっと、時間!」
「え?ああ、そうですね」
彼は特に慌てた様子もなく緩慢な動作で立ち上がる。
「体が辛いでしょうから、今日は見送りは大丈夫ですよ」
そう言って、私の額に口づけた。
いつも、休み前の夜は普段より激しく求めてくるので、彼の言わんとしていることは分かる。・・・分かるのだが、それを匂わすような言葉を口にするのは止めてほしい。
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