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「分かったから、そういう恥ずかしいこと言うのは止めてくれない?」
「無理ですね。私の言葉に一喜一憂する槙さんを見ると堪らなくなるんですから」
・・・いちいち歪んでるのよ
非難めいた視線を送っていると、今度は目尻に唇が降ってくる。
「次来るときは、何か甘いものでも買ってきますから、機嫌を直してください」
「・・・卑怯者」
悔し紛れにそんな言葉を投げつけると、嬉しそうに彼は笑った。
「はいはい。それじゃあ行ってきます」
「・・・行ってらっしゃい」
離れていく彼にそう呟く。
『行ってきます』と言って出て言った人間が必ず帰ってくるとは限らない、という残酷な事実は、病院にいると嫌というほど突きつけられるが、それでも作り笑いは浮かべられなかった。
っていうか、『ありのままの私』を望んだのは貴方でしょうよ
扉を閉める音が聞こえてくると、私は貯めていた溜め息を惜しげもなくその場に吐き出した。
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