352人が本棚に入れています
本棚に追加
/470ページ
「頼むから、もうあの子から何も奪わないでちょうだい」
手のひらに顔を埋めて、院長は呟いた。
それは、おそらく私に向けて放った言葉ではないだろう。
何を言ったらいいか分からず、私は心配そうに彼女を見た。
「・・・えっ、と、とりあえず、碧先生は槙さんの側にいますよ」
頭を悩ませた結果、出たのはもう覆しようのない事実だ。
それを述べると、院長は皮肉めいた笑いを漏らす。
?
「子供を作ることにしたのは、いつどうなってもおかしくない海君に、子供を抱かせてあげたいから、らしいわ」
「それって・・・」
「記憶障害を抱えた海君に、医者の資格を取らせ、この病院を紹介したのは、ウチの姪よ。槙だって、それは知ってる」
私がかつて恋をした人は、想像以上に難しい背景を抱えていたらしい。
最初のコメントを投稿しよう!