Caffe moca di caffe

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「頼むから、もうあの子から何も奪わないでちょうだい」  手のひらに顔を埋めて、院長は呟いた。  それは、おそらく私に向けて放った言葉ではないだろう。  何を言ったらいいか分からず、私は心配そうに彼女を見た。 「・・・えっ、と、とりあえず、碧先生は槙さんの側にいますよ」  頭を悩ませた結果、出たのはもう覆しようのない事実だ。  それを述べると、院長は皮肉めいた笑いを漏らす。  ? 「子供を作ることにしたのは、いつどうなってもおかしくない海君に、子供を抱かせてあげたいから、らしいわ」 「それって・・・」 「記憶障害を抱えた海君に、医者の資格を取らせ、この病院を紹介したのは、ウチの姪よ。槙だって、それは知ってる」  私がかつて恋をした人は、想像以上に難しい背景を抱えていたらしい。
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