Caffe

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「おかげ様でね」  そっぽを向いてそれだけ言うと、背中に海が張り付いたのが感触で分かった。 「でも、体の外はこんなに冷えてますよ。お風呂に入って来ますか?」 「・・・」  瞬時に思い出したのは、あの男にもそう言われたことだ。同時に全身に震えが走る。 「どうしました?」 「・・・坂木にも、言われた。『お前も入って来いよ』って。お風呂から出たら、服がズタズタだった」  震えながら、その時のことを口にする。  こんなことを言いたいわけではない。けれど、一度口にしたら、止まらなかった。  彼は、そんな私の言葉を遮るように抱きしめる。 「分かりました。一緒に入りましょうか」  滲んだ視界のまま彼を見ると、彼は穏やかな顔で私と額を合わせる。  ・・・  罪悪感と安心感の入り交じった息を吐くと、意に反して、彼は楽しそうに笑った。 「帰りに、柚子を買って来たんです。今日は柚子湯にしましょう」  ご機嫌に言われてしまえば、罪悪感はみるみるうちにしぼんで行く。 「・・・最初から、そのつもりだったんじゃない」  溜め息を吐くと、私は彼と共に浴室へ向かった。  
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