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「・・・ねぇ、今度の休み、一緒に鋸南まで行くのは嫌?」
一度息を整えた後、傍らにいる彼に問う。
一瞬びっくりした顔になった彼は、それでも、私の体を優しく抱きしめた。
「・・・大丈夫なんですか?」
「ある意味、可哀想なヤツだったからね。多分、あの家で彼の死を悼んでいる人はいないと思う」
彼は、政略結婚の末に生まれた本妻の子供だったが、後継ぎには既に優秀な兄がおり、散々比較された挙げ句、母のストレスの捌け口として、あたられることが多かったらしい。
『なんで貴方は・・・』
ことあるごとにそう言われていた自分は、父親の不貞のあてつけの末に生まれた、愛人の子供だと言っていた。
「同情で付き合っていたんですか?」
「・・・そういう時もあったわ」
視線をずらして呟くと、彼の複雑そうな顔が目に入る。
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