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「そんなに無愛想でしたかね、私」
最低限、顔の筋肉は動かしていた記憶はあるが、イマイチ記憶に乏しい。
やれやれ、というように綿貫先生は肩を竦めた。
「自覚がない分タチが悪いのは碧と同じか」
「あそこまで酷くないです」
そう断言すると、またしても笑われた。
「二人して、何をそんなに楽しそうにしているんですか?」
「-!」
そんな一言が、私の耳元で響く。
驚いて席を立つと、真後ろで忍び笑いをしている海がいた。
「どうした、碧。病院からか?」
「ええ、すみません。そういうことですので、私はこれで失礼します」
綿貫先生が問いかけると、私のことなど気にもとめずに頭を下げ、踵を返す。
更に、鞄を手にし、歩きだそうとしたその瞬間、何を思ったのか私を見た。
「あ、そうだ、槙さん。一応旅館は明日の朝までとってありますので、千葉に帰る場合は旅館に一報を入れてからにして下さいね」
!!
それは、こんなところで言うことか。
固まる私をよそに、彼は財布から万札を抜き取り、テーブルの上に置くと去って行った。
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