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「実は私、夕方からまた仕事に戻らなければいけないので、着替えも持って行きますね」
遅い昼食を食べた後、そう言って彼女を連れてやって来たのは、千葉駅前の百貨店の中にある宝石店だ。
「どれがいいですかね」
けっこう老舗のショーケースを覗いてみるが、はっきり言って、指輪のデザインなどには詳しくない。
こういったものは、本人のセンスに合うものがいいだろう。
「槙さ」
「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しですか?」
彼女を呼び寄せる前に、店員に捕まる。
「恋人に贈る婚約指輪を探しているのですが」
「エンゲージリングですね。でしたら、こちらです」
奥にある戸棚に案内され、出された指輪を見てみるが、やっぱりどれがいいのかなど分からない。
分かったのは、値段の相場くらいだ。
「槙さん」
横にいる筈の彼女に声をかけるが反応がない。
?
不審に思い、横を向こうとすると、後ろから服を引っ張られた。
「次の店に行こ、海」
「はぁ」
彼女にそう言われたので、店員さんに頭を下げてその場を失礼する。
彼女のお望みの品は何処にあるのやら。
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