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「女の子だったら、名前は『海花(うみか)』でお願いします」
「は?」
「私達の子供の名前です。男の子だったら、槙さんが決めてくれて構いませんよ」
妊娠が判明して早々、彼は嬉しそうに私にそう言った。
「・・・気が早すぎない?」
朝方早くに目が覚めてしまった私は、傍らにいる彼に向かって、ぼんやりとした頭のまま、そう訊ねる。
が、彼は苦笑いを浮かべて私の背中を撫でた。
「そうかも知れませんが、人間いつどうなるかなんて分かりませんからね。救命にいると、常にそう思います」
・・・
憂いを帯びた彼の言葉に頷く代わりに、私は彼を抱きしめた。
「分かった。男の子だった場合は、考えておく」
「ありがとうございます」
そう言って、彼が笑ったのが分かる。
それを合図に顔を挙げると、私達はどちらともなく唇を重ねた。
「ゔ」
その余韻を味わうことなく、私は突如として込み上げてくる吐き気に急かされ、洗面所へと急ぐ。
これが、悪阻の始まりだった。
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