番外編ーSogni e fantasmi

30/40
前へ
/470ページ
次へ
   彼女の言葉を聞いて、思い出したのは、入院した当初の太陽の問題行動の数々だった。  それは、夜に度々病室を抜け出し、徘徊するというもので、昼間も中庭辺りで微睡んでいた。 「まぁ、太陽は母親がレイプされた時にできた子で、育ててくれた叔母さんが亡くなった後、引き取られた親戚の家で体を売らされてたらしいから、仕方ないんだけど」 「え」 「心臓が潰れたのだって、そういう無茶な生活で体調崩した時に、隔離された部屋の中に閉じ込められて、放置されたのが原因だし。  まぁ、梅毒とかじゃなくてよかったけどさ」  あまりにも壮絶な彼の事情に言葉を失っていると、彼女は笑う。 「で、眠れないでいる彼のために、歌ってたんだよね、私。シューベルトのアヴェ・マリア。  汚物だらけの部屋の中で意識朦朧としている時に、教会から聞こえてくるその歌で正気を保って、神様を信じた、っていうんだから、オメデタイ人だよね。  しかも、シューベルトのアヴェ・マリアって、宗教曲じゃないし」
/470ページ

最初のコメントを投稿しよう!

352人が本棚に入れています
本棚に追加