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「失礼します。押田さん、調子は如何ですか?」
「・・・」
私がノックをして入ると、彼女は顔を背けた。
まぁ、仕方ない。私は苦笑いを浮かべてベッドに歩み寄る。
「押田さん・・・」
「どうせ、先生も『無理』って言うんでしょ?」
ようやくこちらを向いた彼女は、泣きそうな顔で、そう言った。
「無理、って 子供のことですか?」
私が問うと、彼女は無言で頷く。
さて、どうしようか。
カルテを捲ると、彼女は現在妊娠二十週。これからますます心臓への負荷がかかってくる筈だ。
「産んであげたい、という気持ちは分かりましたが、これからはますます心臓への負荷がかかります。
今までも、息切れや動悸などの症状はあった筈ですよ?」
努めて優しく言ったつもりだが、彼女は苦しげな表情のまま、布団をきつく握りしめた。
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