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救命センターに二つだけある個室は、医局と同じフロアにあり、特別な事情のある患者が入室することになっている。
時々、「どうしても個室がいい」と譲らない患者が金を積んで入ることもあるが、それ以外は、目的の通り使われていた。
その個室を目指して走り、ようやく扉の前に立つと、中から人の話し声、そして物音がする。
嫌な予感と共に扉を開けると、中には患者の他に、今朝も目にした夫の姿があった。
「こんにちは、押田さん。旦那さんも。調子はどうですか?」
「・・・先生」
声をかけると、彼女は涙目で、旦那の方はハッとしたようにこちらを見た。
「どうしましたか?」
「い、いえ。何でもないですよ。な」
「ええ・・・」
そうは言うが、目を逸らした彼女からは、不審な様子しか伺えない。
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