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そんな心中など知る由もない綿貫医師は、納得したのか椅子に腰を落ち着ける。
溜め息を吐くと、そのまま回転座椅子をこちらに向けた。
「・・・お前さんは納得できないかも知れないが、あのお嬢さんの機転で最悪の事態は避けられた。
とりあえずは、そういうことにしておこうや」
「最悪の事態?」
「ああ、そうだ。考えてもみろ。あのまま、あの男がお嬢さんを人質にして立てこもりでもしたらどうなる?」
ふと頭を過ったのは、パニックになる病院とたらい回しになる重症患者だ。
「そんなことになったら、一番困るのは患者。あとは、その後の火消し役になる院長とスタッフだろうが。
あのお嬢さんは、自分の人質としての価値をなくすことで、その事態を防いだのさ」
まぁ、やり方はちょっとばかり強引だかな。
そう言って、綿貫医師は笑った。
「そうですね」
つられて、私もぎこちなくだが笑みを浮かべる。
「ちょっとコーヒーを淹れて来ます。綿貫先生も飲みますか?」
そう言って立ち上がると、『是』という返事が後ろから聞こえた。
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