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あの時以来、人前ではけして髪をアップにすることはなくなった彼女の首筋には、薄い傷痕がついている。
彼女を抱く際、私はいつもその傷痕が見えなくなるよう、その場所に印を上書きしていた。
『体の中が冷たいの。温めて』
そう言って求めてくる彼女を抱く時も、それは同様で。
傷つきながらも自分を求めてくれる、ということが嬉しい半面、彼女をここまで追い詰めた要因が自分にもある、という事実に絶望的な気持ちになる。
自分も、彼女を傷つけ胎児を殺したあの男と代わりはないという結論に達した時、自分は彼女の重荷にしかならないのではないかという疑問が頭を過った。
「・・・すみません」
自分の下で揺れる彼女に安心する一方で、こみ上げてくる罪悪感を悟られてしまわないかと、ごまかすように片手で顔を隠す。
その時、初めて自分が泣いていることに気付いた。
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