Diva solare

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「お詫びに一曲プレゼントするよ」 「は?」  いきなり、何を言い出すのかこの子は。 「ちょうど、歌いたい気分だし」 「・・・」  どこからどう考えても、原因はそれだ。  しかし、言及する間も与えずに彼女は息を吸う。  高らかに歌い上げる彼女の歌声は、思わず聞きほれてしまうほど見事なものだった。 「どうだった?」 「よかったわ。何ていう曲?」 「シューベルトの『アヴェ・マリア』」 「へぇ。初めて聞いたわ」 「ああ。あんまりメジャーではないかもね。しかもこれ、宗教曲じゃないし」 「ふぅん」  そこまでの知識や歌唱力がありながら、なぜ音楽家の道に進まなかったのかという疑問が一瞬頭を過る。 「音楽家の道には、進まなかったの?」 「・・・一応、大学近くのジャズバーでピアノは弾いてたよ」 「へぇ」  それ以上は『聞くな』という雰囲気が漂っていたので、口を噤むことにする。  それでも、何かを考え込むようにしていた彼女は、しばらくすると顔を挙げた。 「じゃあ槙さん、私、そろそろ行くね」  そう言うと彼女は踵を返す。  彼女のいなくなった屋上で、私は溜め息を吐いた。
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