Diva solare

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***  屋上の扉を開けると、生温い強風が私の顔にあたる。  思わず顔を顰めると、風の音に混じって歌が聞こえてきた。  モーツァルトの子守唄・・・  背を向けているせいで、彼女の顔は見えない。  しかし、鎮魂歌(レクイエム)のようなその歌声は、泣いているようにも聞こえた。 「日生ちゃん」 「槙さん」  歌が終わる頃合いを見て、声をかける。  彼女は、何食わぬ顔で私を見た。 「こんなところで・・・」  そう言いかけて、以前彼女が言っていたことを思い出す。  『天国に一番近い場所』ここをそう言い表した彼女が何故ここで歌っていたのか、その理由に察しがついたからだ。 「槙さん、今何時?」  有無を言わせない声音で、彼女は問う。 「・・・十時四十八分。何時の飛行機だっけ?」 「十四時半成田発。そろそろ行った方がいいかな」
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