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「こういうのを、チワ喧嘩っていうんでしたっけ」
「は?」
「宮城先生が言ってたんですよ。『貴方達の痴話喧嘩は、犬も食わないわね』って」
・・・
帰ってきたのは、今までの怒りもバカバカしくなる一言だ。
「・・・もう、いいわ」
本当はよくないが、これ以上この男にそれを言っても通じない気がする。
降参の意を込めて溜め息を吐くと、彼は満足そうに笑ってキッチンへ向かった。
「槙さんも飲みますか?コーヒー」
「・・・いらないわよ」
先日、コーヒーメーカーを購入したという彼は、「置かせてもらいますね」の一言でそれをキッチンの棚に設置した。
私はコーヒーを好んでは飲まないが、彼が飲みたいのなら止める気はない。さらに言うなら、コーヒーの香りは嫌いではなかった。
ここ三か月で、寝室の一角には彼専用の棚が置かれ、彼の私物がどんどん増えて行った。さらには彼用のエプロンも置かれ、来た時の食事は大抵一任している。
たまの休みにはどこかに出かけてデートっぽいことをすることもあるし、昼頃に目覚めると、いつの間にか帰ってきていたらしい彼に掃除機で顔を吸われることもある。
・・・つまり、日常への浸食具合が半端じゃない。
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