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口に含むと、少しほろ苦いがまろやかな甘い味が舌の上に広がる。
「気に入りましたか?」
「・・・悪くないわ」
「それは光栄です」
楽しそうに笑いながら彼はエプロンを外し、自分のカップに入った黒い液体を口に含んだ。
「・・・ねぇ」
「何ですか?」
「幸せ?」
「誰が?」
「あ、貴方が」
禅門答のように続いていく会話に、自然と彼と目を合わせているのが恥ずかしくなり、俯く。一瞬驚いたような顔をしていた彼が、カップを置いて近づいてきたのが気配で分かった。
「?」
握っていたカップが消え、代わりに彼の腕が私を包む。
「可愛いこと言いますね。幸せに決まっているじゃないですか」
・・・
そう言いながら、彼の手は私の顎を捕らえ、上を向かせた。
彼の目を見ないように俯いていたはずなのに、その抵抗が無意味なものにさせられる。その目に艶めかしい光が宿ったような気がするのは、気のせいではないだろう。
「ちょっと・・・」
「貴女が身も心も私のものになってくれて、子供を産むとまで言ってくれて、幸せじゃないはずないでしょう?」
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