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第六幕 『配れらた〝愚者〟』
水が、頭上から降り注ぐ。
隆義は静かに、狭いシャワールームの中で、ダヴ偵察機が捉えた街の様子を思い返していた。
多くの人が、家族を失った。住む家と財産を失った。自分の家族は無事だったが、このまま自分だけ助かろうというのは、卑怯ではないか。
確かに戦力は自分一人だけだった。目の前で警察官も死なせてしまった。
もし、市内に残っている人々がこれを知れば、大声を上げて自分を批判し、非難するだろう。その矛先は自分だけでなく、家族にも向けられるはずだ。
「……俺一人のせいで家族まで責められるかもしれない。……俺も母さんも姉ちゃんも、それに耐えられるはずが無ぇ」
シャワーから降り注ぐ水は冷たい。お湯も出せるが、彼の今の気分は、暖かい湯を浴びる事を良しとしなかった。
──お前が逃げたせいで家族が死んだんだ!
──お前の息子は卑怯者だ!
──あなたの弟は、自分一人だけで逃げたのよ!
精神の内に、自分と家族を罵倒し、責める声が響く。それは自責の念からくる虚妄か、一種の強迫観念か、それとも命を落とした者達の呪いの声か。
隆義の脳裏に、その言葉に傷付けられる家族の姿が浮かぶ。
「……」
無言のまま、彼は水を止める。
身長百六十四センチ、体重四十五キロ。痩せた体は直接戦闘に適さない。
──だからと言って、このままのうのうと逃げる事を誰が許すと言うんだ!
精神の内で叫ぶ隆義の目が、鏡に映る自分自身を睨み付けた。
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