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能力の事を知っているのは、俺の他には、死んだ爺ちゃんだけだ。両親にさえ教えていない。
爺ちゃんっ子だった俺は、幼い頃、爺ちゃんの前で初めて能力を発現した。
それが手品やしかけではなく、俺に備わった力だという事を確認した爺ちゃんは、「ええか隆弘、その力は絶対に人に知られてはなんね。知ってしまえばその人はお前を利用しようとする。そして秘密は秘密でなくなり、手がつけられなくなっぞ」と言った。その事は死ぬ時まで、繰り返し言い続けてくれた。
以来、俺は忠実にその言い付けを守っている。子供の頃は、ただ爺ちゃんが言った事だから、と盲目的に従っていたが、少し知恵が付いてくると、自分でも秘密にするべきだという意識が芽生えた。
能力の使用条件や限界を確認するため、人に見られない場所でコソコソと使用する以外は決して使わないよう、自分でも戒めていた。
しかし、今この状況だ。能力を使う以外に助かる方法を思いつかない。そして、いずれ使うのだったら、早いうちに使った方が吉崎の協力を得やすい。極限まで追い詰められてからでは、どうして今まで隠していたのかと反感を持たれる可能性が高い。
それに、能力を使ったとしても吉崎の協力がないと脱出は難しい。
どう切り出したものか考えていると、吉崎がボソッと喋った。
「みんな、大丈夫かなぁ」
声が上ずっている。泣いていたのだろうか。
「ああ、大丈夫だ。コーチが車を急発進させて崖崩れから逃れたのを見た」
俺はとっさに嘘を付いた。事実を伝えて動揺させるのは得策じゃない。
「……そっか。よかったぁ」
「時間はかかるだろうけど、きっと助けを呼んでくれるよ。それにしても、腹減ったな」
「……うん……そうだね」
「唐突だけど俺さ、不思議な力があるんだ。信じられないと思うけど、今その力を使って、食い物を出すから」
俺は手探りで地面に落ちている石を拾った。
「暗くて見えないだろうけど、ちょっとこっちに手を出してみて」
吉崎が困惑しながらも手を伸ばしてくる気配を頼りに、片手でその手首を握り、逆の手で手のひらに石を握らせてやった。吉崎の手は、ぷにぷにと柔らかかった。
「ただの石だろ?その石をある物に変えてみせるから、一旦返してくれ」
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