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「そうだね。こんな事が世間に知られたら大変な事になるね」
「どこかの研究所に監禁されるか、食糧事情の悪い国で延々とまんじゅうを作り出す事になるか、まぁロクな事にはならないよな」
「2人だけの秘密だね」
こんな状況だが、吉崎の声はなぜか少し弾んでいた。
俺の力を隠しておく事に関して、爺ちゃんは徹底していた。能力の事が分かったその日から、大好きだったまんじゅうを食べなくなった。爺ちゃんを喜ばせたくて、俺がまんじゅうを作ってしまう事を避けたのだろう。
爺ちゃんが話してくれるまんじゅうの薀蓄、ーーどこの店は皮は良いがアンコが今ひとつだとか、漢字で饅頭と書くのは人の頭を模して作られたのが発祥だからだとかーー を聞くのが好きだったのだが、そんな話も一切しなくなった。
そこまでして守ってきた秘密を、吉崎が知っているというのは不思議な気分だった。
何度繰り返しただろうか。岩をまんじゅうに変える。ぱふぉ。
食べる。もぐもぐ。
変える。ぱふぉ。
食べる。もぐもぐ。
いざという時まで充電を保たせるため、携帯の電源は切っていた。だから時間の経過も確認できないのだが、数日は経っているのではないだろうか。
慣れた動作で岩に手を当てて、集中する。
ぱふぉ
出来たまんじゅうを手に取ると、少しだけ外からの光が差し込んだ。
「吉崎!光だ!いけるぞ。もうすぐだ!」
「ホント!やった!」
「よし、さっさとこのまんじゅうをやっつけよう」
「うん!」
まんじゅうを分け合い、2人でもぐもぐと食べ終える。腹が膨れると、もうすぐ出られるという安心感も相まって、まったりとした空気が流れた。
「うーん、もうすぐ長江君のおまんじゅうも食べ納めかと思うと、なんだか名残惜しいねぇ」
「そうか? 俺はもう食べ飽きたよ」
「ふふふ。美味しいよ、長江君のおまんじゅう。ね、将来さ、2人でおまんじゅう屋さんを開こうよ。こんなに美味しいんだもん、きっと評判になるよ。それに材料費はタダだし。あ、でも1個ずつしか売れないね」
ふふふ、と笑う吉崎。
それは、単なる冗談だったのだろう。安心感でテンションが上がってしまったのもわかる。
だが、俺は爺ちゃんの言葉を思い出していた。
「知ってしまえばその人はお前を利用しようとする」
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